西アフリカ、リベリア共和国からの報告

−長い内戦は人間の記憶に連続性と絆を失わせる− Page 1

病院プロジェクトで約2年間駐在したリベリアから帰国したのは1983年10月、その1年後も10日ほど滞在した事がある。 リベリアの首都モンロビアを再び訪問する機会が訪れたのはそれから22年が経った今年の2006年3月末のことであった。 隣国のコートジボアールは10年ほど前に大学病院のプロジェクトで何度も訪問したが、リベリアは長い内戦のため今まで訪問する機会がなかった。 その隣国のコートジボアールも2006年現在、内戦のため渡航不能となっている。  

リベリアの首都モンロビアではアフリカ初の女性大統領エレン・ジョンソン=サーリーフは看板を随所に立て、新大統領は今こそ第二の建国の時だと呼びかけている。  1万5千人駐留していると言われる国連リベリア・ミッション(UNMIL)と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の支援から独り立ちするためには、政府の中枢や社会を支える人材が大幅に不足している。 前途多難な印象だった。 

リベリア再訪は私に内戦と言うものが、顔面をぶん殴

られ記憶を失ってしまったかのように、人間の絆をずたずたに切り裂くものだと言う現実を突きつけた。 音信不通となっている当時の関係者の写真を数枚持参して尋ねたが誰も知らなかった。 20年前といえ、そんなはずはないだろうと思ったが、これが突きつけられた現実だった。

他の病院プロジェクトで本年4月から5月にかけて訪問したカンボジアでも同様な経験をした。 内戦により病院整備に必要な過去の活動データが入手困難な事を思い知らされると苛立ちが悲しみに変わった。 院長は長い内戦のあいだ病院関係者は退去していて、その間の事は誰も知らないと力無く答えた。 創設時の資料も離散してしまったとの事である。 内戦は人間の記憶に連続性と絆を失わせる。  

私は「人間は歴史的存在者」であると言う言葉が好きだが、こうような記憶の不連続性をつきつかれると本当に困惑する。    

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